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【要約】リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間 高野登

リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間

リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間



高野登


要約
 

高いサービスレベルで世界中で評価されている高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン」。本書は「感動」を生み出すそのホスピタリティの秘密に元日本支社長が迫った一冊。実際にあった感動的なエピソードを多数紹介しながら、リッツ・カールトンクレド(理念や価値観)、人材育成、ブランド戦略などが具体的に解説されている。
リッツ・カールトンのサービスの根底として存在する「クレド」は、すでに同業や他業界でも取り入れられるなどして有名になっているが、うまく導入できなかった組織も多い。一読すれば、その違いが、クレドを浸透させ改善し続ける仕組みの有無によることがわかるはずだ。またそれは、個々の従業員のモチベーションを上げる仕組みでもある。

そこにさらに従業員同士の連携が加わり、初めて満足を超えて感動を生み出すホスピタリティが実現できるのだ。それらの仕掛けは、商品力やマニュアル的対応だけでは差別化できない時代に、業界を問わず大いに参考にできる。また、コミュニケ―ションやマネジメントを考え直すヒントも多数得られるだろう。

著者の高野登氏は元ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社長として同社の日本進出を成功に導き、現在は「人とホスピタリティ研究所」代表として、おもてなしやホスピタリティの普及活動に尽力。本書はシリーズ累計 30万部のベストセラーとなっている。

要約ダイジェスト

感動を生み出す「クレド」とは
リッツ・カールトンででは、全員が「クレド」(信条)に基づいて行動している。クレドとはリッツ・カールトンの理念や使命、サービス哲学を凝縮した不変の価値観で、従業員は、四つ折の小さなカードをつねに携帯している。

カードの表面には、「クレド」「エンプロイー・プロミス(従業員への約束)」「モットー」「サービスの3ステップ」、裏面には「ザ・リッツ・カールトン・ベーシック」といわれる行動指針が記され、これらを総称して「ゴールド・スタンダード」と呼ぶ。

カードを開くと、私たちが「モットー」と呼ぶ一文が、ひときわ大きな文字で書かれている。「We Are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen(紳士淑女にお仕えする我々も紳士淑女です)」。従業員はお客様と同じ目線、同じ感性で働くべきだという意味である。

これまでホテルの従業員はお客様よりへりくだるのが当然になっていた。しかし、心が通ったサービスをするには、お客様と従業員が同じ目線を持って尊敬しあうことが必要不可欠なのだ。精神面においても召使いのように受動的に働くだけでは、誇りも喜びも感じられない。

一時、アメリカのホテル業界でクレドがちょっとしたブームになったが、しばらくすると下火になった。他社でクレドが受け入れられなかった一番の原因は、クレドのもつ意味を深いところで理解していなかったことにある。いまでも時々耳にする「クレドは最強のマニュアルですね」というコメントにそれが象徴されている。

マニュアルというのは、誰が携わっても一定の結果を実現させるうえで不可欠な指南書だ。それに対して、クレドは「感性の羅針盤」のようなもの。現場で問題に直面したときなどに、その従業員の行動指針がクレドカードを読み解くことによって示される。さらにその感性を全従業員が共有することで、ぶれない方向性が保たれるのだ。

二番目は、クレドの精神を社員に浸透させるための仕組み作りがなされていなかったことがあげられる。毎日のラインナップ(朝礼)では、全世界の3万人近い従業員が、同じリッツ・カールトン・ベーシックについて考える時間がとられる。それを何十年も続けることで、継続を力としていく仕組みが生まれるのだ。

そして三番目の理由として、クレドが単なる上からの押しつけになっていたことが考えられる。じつはゴールド・スタンダートは、必要に応じて若干の変更が加えられている。最初から不変なのは、モットーとクレドの本文だけだ。

ラインナップのときなどに、意識の高いスタッフは、ゴールド・スタンダードをさらに進化させるために様々な意見を出す。こうした声が記録され評価される仕組みがあるので、従業員がゴールド・スタンダードは「自分たちが作り実践するものだ」という意識を強く持てるのだ。

サービスは科学だ
リッツ・カールトンに泊まると、なぜか次々に驚くようなことが起きる。私たちは、そうした体験をつくり出すことを「リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘性)」と呼ぶ。「このホテルを利用するたびに、いつも名前で声をかけられる」「私が泊まるときは、いつも部屋に“ボルヴィック”が常備してある。しかし、友達が泊まったときは“ヴィッテル”だった。ちゃんと私と友達の好みに合わせてくれるんだ」など。

リッツ・カールトンは、こうした小さな「あれ?どうして?」を非常に大切にしている。なぜなら、ミスティークは大きさにかかわらず感動を引き起こすものであり、リッツ・カールトンでは「感動はお客様への最高のおもてなしのひとつだ」と考えているからだ。

「ミスティーク」は偶然に起きるものではなく、チームワークが生み出す。例えば、あるスタッフがお部屋の模様替えを思いついても、他のスタッフが同じ感性を持っていなければ実現は不可能だ。従業員全員が同じ感性を持ち、同じ目的に向かって行動できる仕組みが必要なのだ。

初代社長のホルスト・シュルツィは、ことあるごとに「感動を偶然や個人の能力だけに頼ってはいけない。サービスは科学なのだから」と言った。これは、運が良ければ感動を体験できるという状況ではいけないという意味だ。

例えば、リッツ・カールトンでは、エンパワーメン卜(権限移譲)で従業員に認められている力(権利)がある。(1)上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること、(2)セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること、(3)1日 2,000ドル(約 20万円)までの決裁権、の3つだ。

お客様にお花をプレゼントしたいが、あとで経費として認められなかったら…そんな心配があるうちは、思い切った発想が出てこない。エンパワーメン卜の仕組みができているからこそ、通常のサービスを超えた最高のおもてなしを実現できるのだ。

また、スタッフ同士で気軽に助け合える環境の秘密は、全従業員が持っている「ファーストクラス・カード」にある。手伝ってもらった感謝のしるしとして相手に手渡すことで、最大級の感謝の気持ちを示すことができるものだ。

また、カードは人事のセクションに回され、その結果は、次の人事査定の参考資料としても使われる。頑張れば他のスタッフからの敬意を集め、同時に会社からも評価される――そんな仕組みがあればこそ、従業員も積極的にヘルプに取り組むようになるのだ。

リッツ・カールトン流「人材の育て方」
リッツ・カールトンは、とくに人材へのこだわりを強く持っている。採用の段階から十分に時間をかけ、入社後の教育も毎日欠かさず行う。採用では、サービスに関する技術や知識より、その人固有の性格や価値観といったパーソナリティを重視している。

入社したスタッフは、まずはじめに2日間のオリエンテーションを受ける。会社が伝えることは、新しい職場に対する不安を取り除いてあげる姿勢である。こうしたプロセスを抜きにして仕事のノウハウだけを教えても、形ばかりの表面的なサービスになってしまう。最高のサービスを提供するには、まずスタッフが心から楽しんで働くことが大前提なのだ。

新入社員が現場に配属されたら、まず初めに、地味な現場の仕事の大切さ、それらの仕事が会社のビジョン達成のためにどういう意味があるのか、それを明確に納得できるように伝える。企業が犯す最大の罪は、従業員にビジョンなき仕事をさせること、とはシュルツィの言葉だ。

ビジョンなき単純作業を 10年重ねてチーフになった人は、次の世代に対しても同じことをする。この悪循環を断ち切るには、20代前半から 30代前半までの、感性が一番鋭い勝負時に、創造性を発揮させる機会をどんどん作ることだ。

セクションの枠を超えた問題解決サークル、企画商品の社内コンペ、あるいは社会福祉活動、などもスタッフの感性や人間性を磨く良い機会になる。リッツ・カールトンでは、社員が自由に感性を発揮するための仕組みのひとつと「グッドアイデアボード」がある。休憩所にフリップチャートが置いてあり、スタッフが気がついたことを何でも書き込めるようになっている。

お客様からの苦情に対するアイデアなど、緊急性の高いものはすぐに検討され、そうでないアイデアも3日ごとにまとめられて検討され、良いものであればすぐに実行に移される。面白いことに、そこから採用されるアイデアで目立つのは、キャリアの浅い社員が書いたものだ。

若いスタッフは、ベテランがもう見えなくなってしまったものを見る感性を持っている。会社はそれを企業内の枠やルールのなかに閉じ込めるのではなく、むしろ積極的に引き出してあげる必要があるのだ。

リピーターをつくるブランド戦略
リッツ・カールトンのブランド戦略は明快で、トップ5%の顧客層がコアターゲットだ。トップ5%とは、経済的な余裕や社会的な地位を含めてトップグループに入る方々を指し、「トップ5%の方にサービスを提供する」ということではなく、「トップ5%の方の感性を満足させるようなサービスを提供する」という目標である。

この2つは似ているようで、大きく違う。前者はトップの方に限ってサービスするという意味だが、後者には、多くの方にトップの方が満足するような感性に触れてもらいたいという意味が込められている。

リッツ・カールトンにとってブランドとは「約束」を意味する。すべてのブランドは、それを購入するときに、お客様のなかで期待値が設定される。それが 100%満たされた場合、お客様は満足されるが、それはお客様との約束を果たしているレベルに過ぎない。

お客様自身が想像すらしていなかったサービスを提供することで感動を引き起こすのが、リッツ・カールトン・ミスティークだ。「満足」から、「感動」「感謝」のレベルを目指して初めて、サービスを超える瞬間がおとずれ、お客様に愛されるブランドへと育っていく。

クレドには、お客様に心のこもったおもてなしをすること、心温まる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気をお楽しみいただくこと、お客様が言葉にされない願望やニーズを先読みしてお応えすること、などがお客様への約束として明記されている。

そして、その約束を現場において遂行しているのが、リッツ・カールトンの紳士淑女、つまり一人ひとりの従業員だ。当然、紳士淑女たちには、ブランドを代表する人格と品格(ディグニティ)が求められる。お客様にとっては目の前の紳士淑女がブランドのすべて。そのことからも、リッツ・カールトンが人格を優先して人材を選択しているのには深い意味があるのだ。(了)

 

 



 

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