9課の分析で、発症条件は(1)「五月革命」に身を投じた思想家、パトリック・シルベストルの著書「初期革命評論集全10巻」を読んでいること、(2)その初期革命評論集の幻の11冊目「個別の11人」を探し出して読んでいること――であることが分かります。
ただ、最後にもう1つある発症条件が分かりませんでした。後に、9課のバトーがゴーダと対峙して問いただすと、ゴーダはあくまでも仮定として(3)義体化以前に「童貞」であったことを挙げるのです。
この3つの要素のチョイスは実に見事で、(1)はいわゆる革命家を夢見る中二病精神、あるいはヒロイズム、(2)は偏執的探究心、あるいは行動力、そして(3)は、女性に相手にされなかったことによるルサンチマン、ある種の恨みの念――とみると、見事、特定のベクトルの人物像が浮かび上がってきます。
非モテは危険因子
異性から相手にされない人はフェミニズムとともに凶暴化します。
自分を認めてもらえない憤りといいますか、そんな感じの複雑な感情。
火薬庫になりそうな特定のベクトルを持っている人を探して誘導するには、SNSのターゲティング広告を使います。
直接、爆発に結び付きそうな話題に触れなくても、複数の広告ターゲットから対象を細かく絞り込んで、釣り上げるメッセージを打ち込むことができます。
その上で「個別の11人」の本に相当する、さらに対象者を絞り込むトラップを作る。
なかなかたどり着けないように、ダークウェブにウイルスを仕込んだサイトを作り、何か興味を引くようなレアな情報があるらしいという情報を、ゼロデイ攻撃が成立する日にトラップを仕掛けた上で流すわけです。
飛び付いた訪問者がウイルスに感染したら、PCなりスマートフォンなりを介して、その人間の個人情報を特定します。そうすると趣味趣向などが丸見えになりますから、後は、相手のルサンチマンに火を付ける思想誘導情報を目に付くところに置いたり、米大統領選でも登場したネット経由の扇動工作員、いわゆる「トロール」を使ったりして、掲示板やSNSなどで、「あなたは選ばれた人でやるべきことがある」「行動を起こさねば」といったことを吹き込むか、あるいは絶望させるわけです。日本では銃の所持や爆破の入手が厳しく規制されていますが、海外ならば、大規模なテロにつながるわけです。
煽りはテロを引き起こしかねない
SNSや掲示板にはbotが存在し、現状は野放しに近い。それが「発火させるために煽ることに特化した攻撃」。それはもうテロを起こすシステムの演習なのではと考えてしまいます。